堺市の社会増、76%相当が外国人住民増
―― 編集長コラム 第14回 ――
連載・コラム


選ばれる都市とは?
先日、サカイタイムズでの情報収集の過程において、「おや?」という文章が目に入ってきました。大阪府議会議員の西林克敏府議が、以下の堺市長の投稿をSNSでリポストしていたのです。
4月16日
人口動態については、平成25年から社会減(堺市からの人口流出)が続いていましたが、令和4年に社会増(人口流入)に転じ、最新の令和7年まで継続中と改善傾向です。さらに昨年は15年ぶりに大阪市からの社会増となりました。堺が「選ばれる都市」であるために、都市魅力の更なる向上に力を尽くします✨永藤 英機(堺市長)@nagafujihideki
社会増という言葉
堺市の人口動態を毎月のように見ていた私からすると、ずいぶん違和感のある文章でした。社会増とは、転入から転出を差し引いた数です。堺市に入ってきた人から、堺市を出ていった人を引いた数と言えばわかりやすいでしょうか。だから、堺市が社会増に転じているという説明そのものは、嘘ではありません。ただし、その説明には書かれていない「重要な事実」があります。
それは、堺市の外国人住民の増加です。
社会増の中身
堺市の外国人住民数は、令和7年の1年間で2,152人増えました。堺市の国籍・地域別人口は住民基本台帳に基づく外国人住民数です。
・令和6年12月末 19,621人
・令和7年12月末 21,773人
・増加数 2,152人
国籍が明示されている中で増加が大きかったのは以下です。
・中国 491人増
・ベトナム 480人増
・インドネシア 364人増
一方、堺市の人口動態表の「令和7年中」の社会増は2,831人です。厳密には、外国人住民数の増減と社会増は同じ統計ではありません。社会増は転入と転出の差し引きであり、外国人住民数は月末時点の人数です。外国人住民数には転入・転出以外の要因も含まれるため、この数字だけで「社会増の76%が外国人の転入超過」とは言い切れません。
ただし、同じ期間に外国人住民が2,152人増えていることは事実です。社会増2,831人と比べると、その規模は約76%にあたります。つまり、厳密な内訳ではなく「相当」という言い方にはなりますが、堺市の社会増の大きな部分を外国人住民の増加が押し上げていることは、おおよそ見えてきます。
外国人住民増 ÷ 社会増
2,152 ÷ 2,831 = 約76.0%
これは、かなり大きな数字です。もちろん厳密な内訳ではなく、規模感としての「76%相当」です。ただ、実際の外国人による社会増も、おおむね7割台と見て大きく外れてはいないはずです。それでも「社会増」という言葉だけを聞くと、堺市が都市として広く選ばれ、人が自然に集まっているように見えます。しかし、その中身を見ると、少し違う景色が見えてくるのではないでしょうか。
堺はどう選ばれたのか
堺市長が書いていたように、堺が「選ばれる都市」という表現は、間違いとまでは言えません。ただし、その中身を見ないまま読むと、堺市が都市魅力の向上によって、他都市から広く選ばれているように受け取れます。そこに、私が感じた違和感がありました。
その社会増のかなりの部分が外国人住民の増加で説明できるとしたら、「都市魅力の更なる向上によって堺が選ばれている」とだけ読むには無理があるからです。
介護人材という背景
堺市で外国人住民が増えている背景の一つにあるのが、介護人材の受け入れです。大阪府は外国人介護人材について、EPA、在留資格「介護」、技能実習、特定技能などの制度を示しています。堺市も、ベトナム・ダナン市との介護分野の交流を進めています。
堺市HP:ダナン市友好都市交流事業 第5回介護オンライン交流
もちろん、堺市に増えている外国人住民のすべてが介護職というわけではないでしょう。国籍別人口の表からは、職業まではわかりません。それでも、観光や自由旅行の延長ではなく、技能実習や特定技能、就労・実習など、「お仕事」を背景に堺市へ来ている人がいることは確かです。その動きを「都市魅力」だけで説明するのは、かなり粗い見方ではないでしょうか。
SNSの怖さ
SNSの怖さは、こういうところです。ふんわりとした言葉が綴られると、読む側は自分が思いたい方向に受け取ってしまいます。堺市が「都市魅力の更なる向上」と「人口流入」を並べて書けば、堺市は魅力的だから他の都市から人が増えている、と読めます。もちろん、それも一部にはあるでしょう。
ただ、数字を見れば、もう少し違う景色が見えてきます。事実を書いていても、見えなくなる事実があります。そこに、政治的な言葉の難しさがあるように感じます。
近大移転という要因
もう一つ、今後見ておきたい要因があります。令和7年11月、堺市南区に近畿大学医学部と近畿大学病院のおおさかメディカルキャンパスが開設されました。今後、学生や教職員、医療関係者の移動によって、堺市の人口動態に影響を与える可能性があります。
堺市の社会増には、外国人住民の増加という大きな動きと、さらに今後は、近大移転による動きも加わってくる可能性があるということです。その一方で、「都市魅力によって社会増」という言葉だけが前に出てくる。これが、私が感じた違和感の「正体」でした。
数字を見ると景色が変わる
社会増は事実です。しかし、その中身を見ないまま「堺が選ばれる都市」と受け取ると、堺市で起きている変化を見誤ります。サカイタイムズの読者だけでも、この実態を知っておくといいのではないかと思っています。
ちなみに、堺市ではベトナム国籍の住民が、中国国籍の住民に迫っています。堺市の国籍・地域別人口は、住民基本台帳に基づく外国人住民数です。
・中国 5,634人
・ベトナム 5,541人
・差 93人
ベトナム国籍の住民は、同じ3月末で見ると、10年で約6倍に増えています。
・令和8年3月末 5,541人
・令和3年3月末 3,509人
・平成28年3月末 924人
10年で約6倍の増加なので、爆増といってもいいくらいです。堺市内の外国人が、国籍別ではベトナムが中国を抜く日はそう遠くないのではないかと考えています。
増えることをどう見るか
外国人住民が増えると、心配になる人もいるでしょう。ただ、ポジティブに考えるなら、堺市で子どもに英語を習わせるだけでなく、ベトナム語やベトナム文化に触れることも、これからの選択肢になるかもしれません。ある意味で、新しい雇用や交流のきっかけにもなります。
最後になりますが、冒頭写真にベトナム料理を出したのには理由があります。私はニューヨークに住んでいることもあり、特定の国や地域の人たちが増えると、本格的な料理店が増えていくことを知っています。いわゆる本場の味です。ニューヨークでは、人口の多い国や地域の料理店から、名店が生まれていきます。
堺市にもベトナム料理店が数多くあり、市内にはベトナム領事館もあります。将来的には、堺市に他府県から訪れるようなベトナム料理の名店ができるかもしれませんね。
こうした自分の住む街の人口動態は、頭の片隅に入れておくと、あとから役に立つことがあります。今回は「おや?」という違和感から、ふんわりとした言葉の奥にある数字を見てみました。
堺市で起きていることを、できるだけわかりやすく見える化する。これも、地元ニュースの役割だと思います。
2026年5月1日
サカイタイムズ編集長
笹野 大輔
編集長コラム一覧
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第2回 街を知ることから始まる、堺市のブランド力
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第4回 サカイタイムズ 半年の歩み――地元ニュースの意義
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画像:筆者。ニューヨーク・インターナショナル・オートショーの取材中にて。




