堺のニュースは「誰のため」――ここ微妙なとこ

―― 編集長コラム 第3回 ――

連載・コラム

6/4/2025

サカイタイムズを始めて半年が経ち、いまでは2万ページビューを超えるサイトになりました。調べてみると、1人平均で2本の記事が読まれており、これまで約1万人の方に読まれていることになります。はじめの2カ月はたいした数字ではなかったので、ここ4カ月ほどでようやく育ってきたのでしょう。

堺のみなさんにも地元ニュースを読む習慣が根づきはじめているのかもしれません。地元のニュースを知らないということは、自分の一番身近なところで「なにが起こっているか」を知らない状態。これこそニュース砂漠です。例えるなら、自宅前で工事が始まっても「なにしてんのかさっぱりわからん」という状態だったわけです。

ただ、堺市は人口約80万人の都市です。人口規模からすると、まだまだサカイタイムズが十分に読まれているとは言えません。サカイタイムズはSNSを使っての宣伝すらしていませんが(SNSで堺市民でもない人と時間を費やすのもどうかと思うので)、アクセス数が右肩上がりのいまこそ、伝えるべき情報を丁寧に見極めて発信したいと考えています。

堺市特化ニュースの編集方針とは

サカイタイムズの編集者として、堺市の公式発表ばかりではなく、日々膨大な情報を「これは必要か、不要か」と取捨選択しています。ご存じの通り、サカイタイムズは記事として地味でも、堺市民が知っておいた方がよい情報はなるべく掲載しています。

つい先日、報じるべきかどうか迷った情報がありました。それは堺市が5月に発表した「sakai kitchen〈堺キッチン〉」ブランドの認定商品を募集、という内容です。堺市民に大いに関係しそうな話題ですし、タイトルだけ読むと「自分が作っている製品が認定されるかも」と期待する方もいるでしょう。

「堺キッチン」認定、その違和感

発表資料の写真には包丁や線香立て、手ぬぐい、扇子が並んでいます。しかし出品条件をよく読むと、sakai kitchen〈堺キッチン〉の認証の対象は、堺市内の「刃物」「注染和晒」「線香」業者のみ。しかもこの3つの産業で、なぜ堺キッチン……?

資料には、線香(立て)のどこが“キッチン用品”かと思う人の疑問をかき消すかのように、こう書かれていました。

(堺キッチン)ブランドコンセプト:「道具を愛することは、くらしを愛するということ。"日々のくらしを愛する"」をコンセプトに、愛着をもって長く使い続けられる上質なアイテムをご提案していきます。

この公募は今回で第5回ですが、おそらく堺市役所や関係する人のなかに「キッチンなんか道具なんかどっちやねん」と突っ込む人もいないのでしょう。公募をキッチンに寄せると線香はおかしくなり、道具に寄せると3つに絞る必要はなくなります。個人的にもキッチンで線香を焚く人は聞いたことはありません。こうなると、報じる側からしても困る内容です。曖昧に「堺キッチンとはなにか」について書くと、サカイタイムズが読者から突っ込まれる対象になることでしょう。「なんやねん、どっちやねんな」と。

実は“限定公募”の現実

行政施策は入札でもそうですが、表向き「どなたでもご応募ください」と幅広く見せかけて、実は「ピタリ賞」みたいに条件に合う人が極端に少ない仕掛けになっていることが多いです。堺市内の包丁業者は30社以下、注染和晒は10社以下、線香業者は約70社。合計100社程度の公募の連絡であれば「もうメールでええやん」と思うのが正直なところです。いまならグループLINEのほうが便利でしょうか。

こうしたことを淡々と報じるのもニュースです。「トランプ大統領がハーバード大学に対し…」というニュースにしても、ほとんどの日本人には関係しませんが、一連の流れのなかの事象として捉えられることができます。これもニュースの読み方の1つです。

ただし、堺キッチン認定の応募を記事としてそのまま流してしまえば、ただのsakai kitchen〈堺キッチン〉の公募情報に過ぎません。もしサカイタイムズが報じるとしたならタイトルはこうなります。

タイトル:堺キッチンが新規認定商品を募集 応募説明会は6月19日開催
サブタイトル:刃物・注染和晒・線香など堺の伝統産品のみが対象やで

もっともらしいでしょう。ただし、おわかりの通り、ほとんどの堺市民には関係してこない情報です。対象は市内の限定100社程度なのですから。

もちろん、伝統産業を行政が支える意義は十分に理解できますし、市民の合意があれば問題ありません。ただ、市民が本当にこの限定された堺市の施策を応援しているのか、と考えると、自信を持って「そりゃそうでしょ」とは言いきれません。堺キッチンについても、もっと幅広くキッチン用品に門戸を開き、「堺らしさ」を追求したほうが、より堺市民のためになるのではないかという気さえしています。

サカイタイムズが“報じない”理由

これらの理由から、あえて報じないことにしました。もちろん報じても問題なく、報じると記録として残る。だから不正などが発覚した場合にはあとに戻りやすい。誰も気にもしていないところで悩ましい判断です。この微妙ところがサカイタイムズの編集方針と言っていいでしょう。

正直なところ、堺キッチンのような行政による施策は、どうしても認定方法に難しさがあります。ニューヨークにキャンペーンで来ている日本の自治体も、物産などが実際にどうやって選ばれているのかは、質問してみると曖昧なケースも少なくありません。ただ、これ以上書くと話が長くなるのでまたの機会にでも。

今回はサカイタイムズのアクセス数が上がっていることもふまえ、サカイタイムズがどんな基準で記事を配信しているのか?と興味を持っているかたの参考になれば、という思いで書きました。

2025年6月1日(日本時間)
サカイタイムズ 編集長
笹野 大輔

“誰のため”のニュースか、自分に問いかけながら