堺弁β版について

サカイタイムズの「堺弁β版」は、大阪府堺市の地域ニュースを堺弁で伝える、全国的にも前例のない試みです。ニュースを方言で配信すること自体が珍しく、特に行政情報や地域の課題を地元の言葉で発信するメディアはほとんど存在しません。このニュースサイトのプロジェクトは、実験的な取り組みとして運用しながら、堺市民にとってより親しみやすく、わかりやすい情報提供の形を模索していくものです。

地域ニュースの重要性と「ニュース砂漠」の進行

最近、世界中で「ニュース砂漠」と呼ばれる現象が進行しています。これは、地域の新聞社やテレビ局が減少し、地元の出来事や問題が十分に報じられなくなる状況を指します。

一方で、インターネットの発達により、私たちはかつてないほどの情報に囲まれています。SNSやニュースアプリを開けば、国内外の政治、経済、エンタメ、スポーツなど、あらゆるジャンルのニュースが次々と流れてきます。しかし、そうした情報の中には私たちが生活する「地元」に関するニュースが極端に少ないという現実があります。つまり、ある地域が、水の途絶えた砂漠のように情報が途絶えるのです。だから「ニュース砂漠」と呼ばれているのです。

全国的に見ても、地元のネットニュースは飲食店の開店や閉店を中心に伝えることが多く、地域の課題や政策に関する報道は後回しにされがちです。たとえば、「新しいカフェがオープン」「人気のラーメン店が閉店」といった情報は比較的多く見られますが、「市の財政状況」「地域の防災対策」「都市計画の変更」など、住民の生活に深く関わるニュースはあまり目にすることがありません。

「少子高齢化」1つにしても、日本全国で起こっているとぼんやり知るくらいで、自分の住む街の人口推移を知らない人がほとんどでしょう。地元で報じるメディアがないからです。もちろん、自分が住む街の飲食店の情報も大切ですが、それだけでは市民が地域の課題を考える機会が少なくなってしまいます。地域社会の未来を考えるには、地元に特化したより多様なニュースが求められます。

大阪府堺市と福井県の比較:地元メディアの有無

この「ニュース砂漠」の問題は、大阪府堺市において特に顕著です。堺市は2025年現在、人口80万人以上を抱える政令指定都市ですが、これまで堺市に特化した新聞やテレビ局が存在していません。大阪府全体のニュースは「読売新聞」「朝日新聞」などの大手紙や「NHK大阪」「関西テレビ」「毎日放送」などのテレビ局が報じますが、堺市のローカルニュースを専門的に伝えるメディアは皆無に近い状況です。そのため、住民は自分たちの街に関する重要な情報を知るための手段が限られています。

一方で、福井県は人口約78万人と堺市とほぼ同じ規模の地域ですが、地元のメディアが昔から根付いています。代表的なものとして、「福井新聞」(1899年創刊)や「福井テレビ」(1969年開局)があります。これらのメディアは、県内のニュースを詳しく取り上げ、地域に密着した報道を行っています。たとえば、「地元の伝統行事」「地域企業の動向」「市町村ごとの政策」など、福井県民が直接関心を持つニュースを日常的に発信し、地域住民が正しい情報を得る手助けをしています。

この違いは、住民の情報環境に大きく影響を与えます。福井では、地元のメディアを通じて住民が地域の課題を知り、行政や自治会の動きに関心を持つ機会が多くあります。しかし、堺市にはそのような情報の「受け皿」がなく、住民が自ら積極的に情報を探しに行かなければなりません。これは、地域社会の活性化や市民の政治参加にも影響を与える問題です。

堺弁で伝える地域ニュースの試み

こうした背景から、地域ニュースの新しい形を模索する必要があります。その一つが、「堺弁でニュースを配信する」という試みです。方言を使ったエンタメやYouTubeチャンネルは存在しますが、「方言をそのままの形で地域ニュースを伝えるメディア」は、堺市に限らず、日本全国でもほとんど見当たりません。

たとえば、市の広報誌に以下のような記述があったとします。

標準語: 「本年度より、所得制限の基準額が改定され、対象者が拡大します」

堺弁: 「今年から、収入の基準が変わって、もらえる人が増えるで」

行政の発表は専門用語が多く、長文になりがちです。そのため、標準語で書かれた行政文書は「よくわからん」「面倒で読む気にならん」と感じる市民も少なくありません。だからこそ堺弁で伝えることで、ニュースがぐっと身近なものになり、住民の情報理解度も向上すると考えているのです。

ちなみに大阪弁と堺弁に大きな差はありません。大阪弁の「待ってんねん」は堺弁では「待っとんねん」、「そうなん?」は「そうやの?」となるなど、細かな違いはありますが、どちらも混在して使われることが多いです。このような微妙な違いは、日本全国どの地域にも見られます。あえてサカイタイムズが「堺弁」で発信する理由は、地元に根ざした言葉で伝えるニュースサイトが少しでも全国に広がってほしいという願いも込められています。

サカイタイムズは「堺弁β版」として運用しながら、どのような形が最適なのかを模索しています。ニュースを堺弁で伝えるという取り組みは、全国的にも前例がなく、まさに実験的なプロジェクトです。単に方言で記事を書くのではなく、「地元の人が本当に知りたい情報や、役立つニュースを、より親しみやすく、わかりやすい形で伝える」という目的のもとで進めていきます。

地域ニュースを支えることが未来につながる

「ニュース砂漠」が広がる今こそ、地域ニュースの重要性を改めて認識する必要があります。地域に密着したニュースがあることで、住民同士の情報共有がスムーズになり、地域社会の結びつきが強くなることでしょう。堺市の人々にとって、堺弁を交えた親しみやすいニュースが提供されることは、単なる情報伝達ではなく、「地域の声を大切にする文化」を守ることにもつながると考えています。

「堺弁β版」は、まだ始まったばかりの試みです。これまでニュースといえば、標準語で伝えられるのが当たり前でした。しかし、ニュースの本来の役割は「人々にとってわかりやすく、身近なものとして伝えること」にあります。地元のことを地元の言葉で語ることで、これまで遠く感じていた情報がもっと親しみやすくなり、地域に根ざした話題を「自分ごと」として捉えられるようになるかもしれません。

この試みを通じて、堺市に住む皆さんが、もっと地元のニュースに関心を持ち、地域の課題や魅力について考えるきっかけになればと願っています。そして、堺弁でのニュース配信という新しい形を、一緒に育てていけたら嬉しいです。

「堺弁β版」は、まだまだ発展途上です。読んでみての感想や、「こんなニュースを取り上げてほしい」「こういう伝え方のほうがわかりやすい」といったご意見があれば、ぜひお聞かせください。皆さんとともに、より良い地域ニュースの形を作っていきたいと思います。

あと、関西弁や堺弁に馴染みがなく読みにくい人は……ごめんやで。この「ごめん」は「お引き取りください」ではありません。読みにくいと感じる読者も含め、これからもサカイタイムズの「堺弁β版」をよろしくお願いいたします。