「市政報告」と「政党活動」の境界

堺市議団チラシをめぐり、行政と司法が真逆の判断を下した理由

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サカイタイムズ

10/27/2025

維新プレス堺Vol.3の紙面構成|堺市議団チラシをめぐる政務活動費返還訴訟に関する判決解説|堺市のニュースならサカイタイムズ
維新プレス堺Vol.3の紙面構成|堺市議団チラシをめぐる政務活動費返還訴訟に関する判決解説|堺市のニュースならサカイタイムズ

2022年度に大阪維新の会・堺市議団が発行した広報紙(チラシ)「維新プレス堺Vol.3」をめぐり、市民が「政党の宣伝を政務活動費で賄った」として住民訴訟を起こした。堺市の監査委員は「市政報告として妥当」と結論づけたが、大阪地裁・高裁はいずれも「一部は選挙や政党活動にあたる」と判断し、一部返還を命じた。同じチラシを行政と裁判所が真逆に見た理由は何だったのか――。

ガッツポーズの問題?

10月23日、ABCニュースは「維新・堺市議団のチラシ『広報活動にあたる』政務活動費返還命じる 市政報告に永藤市長の写真 大阪高裁が1審判決支持」と高裁の判決を報じ、朝日新聞は3月、「市長ガッツポーズ、チラシの一部は『政党の宣伝』政活費の返還命令」と地裁の判決を伝えていた。
しかし堺市民からすると、堺市の維新市議団のチラシに市長が写っていること自体に違和感を覚えにくいかもしれない。ここに、政務活動(公費が使える)と政治活動・政党活動(公費が使えない)との線引きの難しさがある。

公費負担の有無

公費負担あり(政務活動費の対象)
・議員や会派が、市政・議会活動の報告や調査結果を市民に伝えるもの
・政策や実績など、市政運営に直接関係する内容

公費負担なし(対象外)
・特定の政党や候補者を支持・宣伝する内容
・選挙・政治活動に結びつくスローガン、写真、キャッチコピーなど

堺市の監査では「問題なし」と判断

住民訴訟に先立ち、2024年1月に堺市の監査委員が行った監査では、このチラシについて「会派の市政報告として妥当」と結論づけていた。監査委員は、チラシ全体を通じて「議員団の政策や実績を市民に報告する目的が明確であり、政務活動費の使途として合理的関連性がある」と判断した。

問題となった永藤市長の写真や「改革効果130億円」といった表現も、「市政運営に関する説明の一部」と位置づけられた。堺市では、広報紙の一部に政党色が含まれていても全体として市政報告の形式を保てば支出を認めるという独自運用があり、これが行政としての「形式的な適法性」を支える根拠となっていた。

つまり市の監査は、「政務活動費の基準を満たしているか」という書面上の整合性を中心に審査し、市民がどう受け取るかという“印象”までは踏み込まなかった。しかし、同じチラシを司法の目で見れば、評価はまったく逆になったということだ。

裁判所は「選挙ポスターのようだ」

大阪地裁・高裁は、堺市の監査判断を覆し、チラシの一部を「選挙活動または政党活動にあたる」と認定した。裏面下部に掲載された永藤市長のガッツポーズ写真と「永藤市政で産み出した改革効果は約130億円!」という大きな文字が焦点だった。

裁判所は、この構成が2019年の市長選挙ポスターと同一であり、「市長個人とその所属政党を宣伝する効果を持つ」と指摘。その部分が紙面の約4分の1を占めるとして、印刷・配布費108万円のうち27万円分を不当支出と認定した。判断基準は、発行側の意図ではなく「市民の目からどう見えるか」。裁判所は「社会通念として政党活動に見えるかどうか」で判断し、写真やスローガンなど政治的印象を与える要素を重視した。

一方で、議員団の集合写真や市財政グラフなどの部分は「政務活動としての広報」と認めている。つまり裁判所は、形式ではなく「受け取る側の印象」で線を引いたのである。

名称は違法とされず、印象形成の一因に

問題を複雑化させている要因は、線引きの曖昧さだ。もしチラシに政党色があると「政党活動(公費負担なし)」となるなら、今回の「維新プレス堺Vol.3」という名称も論点になりそうだ。しかし、司法で名称自体は問われていない。焦点は市長の写真と金額表現の構成にあった。

堺市の監査委員も、題字そのものは問題視しておらず、内容が市政報告として成立していれば政務活動費の対象と判断している。ただし裁判所の判決は題字に直接触れていないものの、市長の写真とキャッチコピーの組み合わせが「政党や首長の宣伝と受け取られる」と判断された。

つまり、「維新プレス」という名称自体は形式上は問題とされなかったものの、紙面全体の構成次第で政治的印象を強める要素になりうる。これは維新だけの問題ではなく、どの政党・会派にも共通する課題でもあるだろう。堺市民にとっては、政務活動費で発行されるチラシとは本来どんなものであるべきかを考える契機となったのではないだろうか。(笹野 大輔)

出典
・【大阪地方裁判所】令和5年(行ウ)第165号 政務活動費返還請求事件(住民訴訟)令和7年3月27日判決
・【堺市監査委員報告】令和6年1月29日付「堺市議団 政務活動費監査報告書」(監査資料0129_05)
・「維新プレス堺Vol.3」(堺市議団発行、2022年度)

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