怒鳴られても、日々の不条理も芝居の糧 俳優・河本久和さん

山尾企画「おいでよ!テアトル堺」に出演 10月31日・11月1日

インタビュー・特集
サカイタイムズ
稽古で台本を手にする河本久和さん
『おいでよ!テアトル堺』の稽古で台本を手にする河本久和さん

22歳で演劇を始め、受賞歴も

社会と折り合いをつけるのが下手な性分で、芝居に救われています――。俳優の河本久和さん(50代)は22歳で演劇を始め、劇団「空の驛舎」に入団。劇団太陽族や遊劇体などにも客演し、劇団太陽族『JAPANESE IDIOT』で第7回関西現代演劇俳優賞奨励賞を受賞した。現在も俳優として活動を続け、10月31日・11月1日にフェニーチェ堺で上演される山尾企画『おいでよ!テアトル堺』に出演する。

お客さんに怒鳴られたり、日々の不条理に直面したりしても「芝居の糧」と捉える河本さん。仕事、堺とのつながり、演劇を始めた転機、目指す芝居について聞いた。

Q1

これまで、どんな仕事をしてきましたか?

昼はパートのおじさんです。いろいろな仕事をしました。中百舌鳥のお店でパスタを提供したり、堺東のお店でお酒を提供したり、飲食店でよく働いていました。東京に住んでいた頃は、朝早くから現場に入ってエキストラをしたこともあります。

今はコンタクトセンター(電話やチャットでお客様とお話しするところ)で働いています。システムコンサルタントの会社や塾で正社員として働いたこともありますが、基本的には芝居の現場に支障が出ないところで働いてきました。

Q2

いまの生活の中で「自分らしい日常だ」と感じる場面とは?

『おいでよ!テアトル堺』の稽古に臨む河本久和さんと出演者らをまとめた4枚の写真
『おいでよ!テアトル堺』の稽古に臨む河本久和さんと共演者ら

私はなかなか社会と折り合いをつけるのが下手な性分で、芝居に救われています。「同じような人は、みんな芝居をすれば良いのに」とさえ思います。芝居のおかげで日々楽しく過ごしているからです。稽古はもちろん、観劇や、友だちと一緒に公演とは関係ない戯曲を読んだり、走ったり泳いだり、芝居のために過ごす時間が楽しいです。

お客さんに怒鳴られたり、家族が困ったことになっても、芝居の糧だと思えば、少しは前向きに捉えられます。

『おいでよ!テアトル堺』の稽古に臨む河本久和さんと出演者らをまとめた4枚の写真
『おいでよ!テアトル堺』の稽古に臨む河本久和さんと共演者ら

日常のやり取りも芝居の糧

世の中は不条理なものですよね。その中でいかに丸く収められるか、演技力が求められると気づくのに、生まれてから40年くらいかかってしまいました。声のトーン、震え、視線など、短いやり取りの中で人は膨大な情報を発しています。言葉だけではなく、そのやり取り全体で相手を落ち着かせたり、余計に苛立たせたりします。意識的にコントロールできるようになれば、それは芝居でも役に立つと思います。

どうしても人がにじむのが芝居で、それはいつかの一瞬ではなく、生まれてから本番までの膨大な時間の積み重ねの中にあると思います。

母にも「前向きになれる何かを」

母は長い間、一家の大黒柱として仕事に打ち込んでいました。仕事をするのが向いていたのか、生き生きと働いていたのですが、年金暮らしが始まると一気に老け込んでしまって、家から出るどころか布団から出るのも億劫になってしまいました。不健康な生活でどんどん体も小さくなり、以前のように動けなくなりました。

母には「私にとっての芝居のような、前向きになれる何かが見つかれば良いのにね」と度々伝えています。同意はしてくれるのですが、好きなことと出会うというのは、なかなか難しいのでしょうね。

そんな芝居とともにある日常の一コマ一コマを、自分らしい日常だと思います。

Q3

堺とのつながりを強く感じるのは、どんな時ですか?

小学校入学から中学2年生の夏休みまでは堺を離れていたので、堺の記憶はほぼ中学生の途中に帰ってきてからのことになります。堺東の高校に通い、大学も中百舌鳥だったので、大学時代は堺銀座商店街の居酒屋で働いていました。

今は大阪市内に暮らしていますが、堺東駅に降り立つと、自分が生きてきた街にいることを実感します。体育で仁徳天皇陵の周りを走ったりしていたので、世界遺産に登録された時には誇らしい気持ちでした。

また、さかい利晶の杜でたびたび演劇やリーディングなどが行われていることも誇らしいですし、フェニーチェ堺という立派なホールができたことも誇らしく思います。離れていても、堺を誇らしく思う時に、自分は堺で生きてきた人間なのだなあと実感します。

Q4

人生の中で「大きな転機だった」と感じている出来事とは?

大阪府立大学(現・大阪公立大学)に進学し、友好祭実行委員会に入ったことです。それまでは仕事以外であまり人とコミュニケーションをとることがなかった私が、たくさんの人と接することになりました。友人と呼べる人が増えましたし、今も付き合いが続いている親しい先輩ができたのも、初めての恋人ができたのも、その頃でした。

もちろん、それ以前も狭い範囲で友だちはいましたが、一気に周りに人が増えて、いろいろな関わり方をしたのが大学の頃だったと思います。大学時代に楽しい時間を過ごせたことで、挑戦することにも前向きになりました。

就職活動で思い出した「ドラマに救われた自分」

就職活動を始めた時、「人生において何を成したいのか」「この仕事を楽しんで続けられるのか」と繰り返し聞かれました。その時、中学生の頃にドラマに救われていた自分を思い出して、それまでまったく手を出してこなかった演劇というものにチャレンジしてみようと思いました。

芝居を始めたのは大学卒業間近でした。あの大学時代がなければ、今ごろ芝居をしていないような気がします。こんな世界に飛び込むことができたのは、大学の頃の毎日のおかげだと思います。

Q5

これからの人生について、現時点で考えていること。

遠い先のことを考えると、政府が試算したような貯蓄がなくて憂鬱になりますが(笑)、あまり先のことは考えていません。これから、もっと懐の大きな人間になりたい。憧れの先輩たちのような役者になりたいです。

上演時間より長い人生を感じさせたい

憧れの先輩方の芝居は、強く人間の力を感じさせます。セリフの奥を感じます。「そのアドバイスに至るまでに、人生でどれだけ深く傷ついたのだろう」「何年、何十年と信念を持って積み重ねてきた上での、たった一言なのだろう」「言った言葉とは裏腹に、相手のことを心配し、思いやって遠ざけようとしているのだろう」と感じます。

上演されている切り取りの、その時間よりも多くの時間を感じさせることのできる芝居がしたいと思っています。そういった目標に向けていろいろとやりたいことがあり、幸いなことになかなか忙しく過ごせています。

まだまだ至りませんが、今回の『おいでよ!テアトル堺』でも、目指す目標に向けて良い役をいただきました。本番まで精進して参ります。これから先も、そんな楽しい時間の積み重ねがあると良いなと考えています。

『おいでよ!テアトル堺』のポスターやチラシを手にする山尾企画の出演者ら
10月31日・11月1日にフェニーチェ堺で上演される山尾企画『おいでよ!テアトル堺』の出演者ら

「おいでよ!テアトル堺」公演概要

開催:10月31日(土)19:00、11月1日(日)11:00 高野線SIDE(河本久和さん出演)
会場:フェニーチェ堺 小ホール(堺市堺区翁橋町2-1-1)
料金:前売A席3500円、堺市民限定2000円ほか チケット購入

サカイタイムズのニュースレター見本(クリックで拡大) クリックで拡大

こうしたメールが届くようになります

希望する方は入力欄にメールアドレスを入れ「登録を完了する」ボタンをクリックしてください