ニュース検索でトップ表示、その裏にある編集
―― 編集長コラム 第6回 ――
連載・コラム
サカイタイムズが検索でトップ表示
気づけばサカイタイムズはGoogle/Yahooの検索において「堺市 ニュース」でトップ表示されるようになっていました。両者は同じように見えても、検索順位を決める基準には少し違いがあります。
GoogleとYahooの違い
Googleは世界規模で情報を評価しており、記事の専門性や正確性、信頼性に加えて、ページの表示速度やモバイル対応といった技術面も重視しています。
Yahooの場合は検索システム自体はGoogleと似ていますが、日本国内での利用データをより強く反映する傾向があり、どの言葉で検索されやすいかや、実際にどれだけクリックされ読まれているかが影響します。
つまりサカイタイムズが両方で上位に表示されているのは、記事が信頼できる情報源として評価されているだけでなく、堺市の人々に実際に読まれている証でもあります。
記事数と競合の少なさ
嬉しい限りです。記事数も8カ月で1000本を超えました。ただ、たった8カ月でこのような結果になるということは、それだけ競合が少ないということでもあります。
ニュース配信での工夫
ニュースを扱うにあたり、工夫もしています。そのひとつが記事をイメージしやすいように画像を使って可視化していることです。もうひとつは、PR文や発表から主観を取り除くことです。例えば飲食店が「おいしい」「夏にピッタリ」と書いていれば削除します。また、市の発表もどこに主題があるかを見極め、編集してから掲載しています。
発表タイトルをどう変えるか
例えば先週、堺市の発表にこんなタイトルがありました。
・8月29日提供 株式会社インフィールド様からの喫煙所設備の寄贈に対し感謝状を贈呈します
素晴らしいことです。民間会社が深井駅前に590万円相当の寄付をして喫煙所ができたのです。
ただし市のタイトルは「株式会社インフィールド様からの喫煙所設備の寄贈を受けました」ではなく「株式会社インフィールド様からの喫煙所設備の寄贈に対し感謝状を贈呈します」でした。
このままだと読み手は、市長からの感謝状の贈呈が主題と受け取りかねません。そこでサカイタイムズでは「株式会社インフィールドが深井駅前に喫煙所設備を寄贈」と報じ、サブタイトルに「深井駅周辺は『路上喫煙等マナー向上重点啓発区域』に指定されたんやで」と加えました。これならタイトルとサブタイトルを流し読みするだけで時流がつかめます。
株式会社インフィールドが深井駅前に喫煙所設備を寄贈
深井駅周辺は「路上喫煙等マナー向上重点啓発区域」に指定されたんやで
情報を取捨選択
サカイタイムズは、膨大な情報をそのまま垂れ流しているわけではありません。行政発表や警察のメール、プレスリリースなど毎日大量に届く情報の中から「堺市民に役立つかどうか」を基準に取捨選択し、主観やスピン(偏った解釈)を取り除いて編集して配信しているのです。
東京からのアクセス増の理由
Googleアナリティクスというツールを使うと、どの地域の人がどんな記事を読んでいるかがわかります。8月は「やけに東京からのアクセスが多いな」と思って見ていました。はじめは東京の知り合いがメディア関係者にでも送ったのかと思いましたが、すぐに違うことがわかりました。
単純に夏休みだったのです。東京から大阪に向かう人たちが記事を読んでいたのです。お盆前後には、イベントや祭りの記事のアクセスが大きく伸びていました。自分自身もニューヨークから堺への帰国日が迫ると「地元でなにかやっているのかな?」と調べたことがあります。ところがいつも「堺では何をしているかよくわからない」という状態でした。そこで自分ごとのように考え、8月は急いでイベントや祭りの記事をリスト化して配信しました。
不審者情報の取捨選択
一方で、配信するか迷うものが多いのも堺のニュースの特徴です。例えば警察発表には「不審者情報」や「被害情報」があります。ただ「これは不審者と呼べるのか?」と思うものが混じっています。
8月29日/堺市東区白鷺町2丁
小学生に「いくつ」「名前は」と声をかける
→ 男:30歳くらい、上下茶色っぽい服装、外国人風
6月6日/堺市南区宮山台の公園
小学生に「名前」「年齢」「どこのクラス」と尋ねる
→ 男:50歳くらい、黒髪で頭頂部が薄い、黒と青の長袖上衣、電動自転車
6月5日/堺市中区福田付近
女児に「今日何曜日かな」と尋ねる
→ 男:70歳くらい、小太り、白髪頭、ヘルメット着用、青色っぽい服
3月7日/浜寺公園駅付近
女子中学生に「こんにちは」と声をかける
→ 男:50歳くらい、肥満体型
3月7日/堺市西区上野芝向ヶ丘町付近
女児を何度も振り返り見ていた
→ 男:30歳代くらい、金髪
浮かび上がる共通点
これらはほんの一例で、サカイタイムズが報じなかった「不審者情報」です。5つに共通する特徴があります。それは――。
答えはルッキズムです。


ルッキズムとは
先ほどの不審者情報5件リストはどれも「行為自体の危険度が低いのに、外見的特徴の強調で“不審者扱い”されている」という共通点が浮かび上がります。
ちなみにルッキズム(Lookism)とは、外見や容姿を意味する「ルックス」と「主義」を意味する「ism」を組み合わせた造語で、外見のみを重視して人を判断したり、容姿を理由に差別したりする考え方や社会現象を指します。
社会を冷たくしないために
名前を聞いたり挨拶したりすることはコミュニケーションでもあり、小さな子どもが1人で歩いていたら心配になり目で追うこともあるでしょう。ニューヨークでは不審者を見ない日はないほどですが、日本のようにルッキズムによるラベル貼りで不審者を数えることはありません。
警察を批判しているわけではありません。警察は事案を受理すれば情報を出さざるを得ないからです。
私が気にしているのは、ルッキズムを放置することで冷たい社会になってしまうことです。公園近くで知らない人であっても「こんにちは」と声をかけるような社会は悪くはないでしょう。つい先日は、60代の男女が小学生に「おばちゃんが写真撮ってあげるよ」と声をかけた事案も不審者とされていました。
知っている人とのみ話す社会が目指すべき社会なのでしょうか?私はそうは考えていません。だからサカイタイムズではルッキズムの疑いがあれば報じないことにしています。
編集方針としての取捨選択
今回はサカイタイムズの読者の方も、こうした記事化する際の編集方針があると知っていただくとおもしろいのではないかと思って書きました。引き続きサカイタイムズは堺市民のためになる配信を続けていきたいと考えています。
※2枚の写真は2025年ニューヨークのマーメイドパレード当日の様子。編集長は1枚目の右側です
2025年9月1日(日本時間)
サカイタイムズ 編集長
笹野 大輔