地元をもっと身近に。堺市の「いま」を伝えるために

―― 編集長コラム 第10回 ――

サカイタイムズ

12/31/2025

1年を振り返って

サカイタイムズを始めてから、まもなく1年になります。

50歳以下の新聞購読者はほぼゼロとなり、東京発信のいわゆる「こたつ記事」がネットにあふれ、SNSでは断片的で感情的な情報が拡散されています。そうした時代に、地元で何が起きているのかを十分に把握できていない人が増え続けています。サカイタイムズは、まさにその状況のなかでスタートしました。

堺のことを知らない

第1回の編集長コラムでも書きましたが、当時の堺市は「堺の人は堺のことを知らない」状態でした。そう言い切れるのは、私自身の経験があるからです。来週や来月に堺市で何が行われているのかはもちろん、今日や明日のことすら把握できていませんでした。知りたくても、知るためのツールが限られていたのです。

街の動きが見えない

これは、単にイベント情報だけの話ではありません。堺市という街全体が、どのように動いていて、どこに向かおうとしているのか。その全体像すら見えていませんでした。同じ感覚を持っている人は多いのでしょう。実際、東京の新幹線の駅やバスの発着地点から、サカイタイムズへのアクセスが一定数あります。里帰りを前に、「ところで堺市っていまどうなってる?」と調べている人が一定数いる、ということだと思います。

フレーズの原点

1年前、サカイタイムズは「地元をもっと身近に。堺市の〝いま〟を伝える」という考え方を軸に、運営を始めました。いまもホーム画面の最下部に、当時の画像として残しています。SNSで個人の主観(感想・気分・体験)や、考えることをやめさせるような根拠のないランキングがあふれる時代に、地域に特化したローカルメディアはどうあるべきなのか。そこが、サカイタイムズの出発点でした。

書く時代から選ぶ時代へ

ひと昔前であれば、ローカルメディアは、文章を書くことが好きな人に向けて「子育てママ向け文章講座」などを開き、書き手を増やすことで成り立っていました。文章を書ける人が相対的に少なく、Webに載せる文章そのものがスキルとされていた時代です。書ける人を増やすことが、そのままメディアの循環につながっていました。

しかし、状況は大きく変わりました。AIの登場によって、文章を書くこと自体は、誰でも代替できるようになったのです。AIの時代に重要なのは、「なにを書くか」を考える能力ではありません。文章を書く行為そのものは、すでに特別なものではなくなっているからです。むしろ重要なのは、「なにを書かないか」を判断し続ける編集です。

情報源はどこか

この1年でよく聞かれた質問のひとつが、「どこで堺市のニュースになる情報を得ているのですか」というものでした。答えはいつも同じです。「なにを載せないか」です。毎日大量に出てくる行政発表、告知、民間PR、ニュース未満の情報。そのなかから、「堺市を理解するために必要か」「堺市民の生活にどう関係するか」「いま出す意味や残す価値はあるか」を視点に選び続ける。その積み重ねが、メディアの性格を形づくっていきます。

堺弁でも届いた

この1年で、意外だったこともあります。それは、堺市の教職員の方々からの問い合わせが多かったことです。サカイタイムズはご存じの通り、堺弁という関西弁で書かれています。大阪の感覚として、標準語は「真面目」、関西弁の口語体は「フレンドリーだが上品とは言えない」と受け取られることもあります。そのため、教育現場に関わる方々から距離を置かれる可能性もあると考えていました。

ただ、実際にはそうなりませんでした。堺弁で書かれていても、記事の中身をきちんと読んだうえで連絡をいただくケースが多かったからです。サカイタイムズの記事には、「すごい」「ひどい」「問題だ」といった評価語や、感情的な断定がほとんどありません。出来事を整理し、事実関係を優先して伝える。その姿勢が、文体よりも先に伝わっていたのであれば、嬉しく思います。

数字は目的ではない

約1年で、記事数は1500本を超え、アクセス人数・アクセス数ともに何十万規模になりました。1日あたり、だいたい1000人の方が訪れています。まだまだサカイタイムズが堺市民の方に知られていないとは思いますが、堺市の話題だけで、知名度ゼロから、SNSゼロ、宣伝ゼロを続け、それでも反響があったことには、率直に手応えを感じています。

もっとも、数字そのものを誇るつもりはありません。私自身、他媒体で記事を1本書くだけで、100万、150万アクセスを記録した経験が何度もあるからです。紙媒体への寄稿では読んだ人の数はわかりませんが、サカイタイムズのアクセス数よりも多いでしょう。それに比べればサカイタイムズのアクセス数は小規模です。ただ、堺市の人口が約80万人であることを考えれば、「よし」としています。

伸びない記事も出す

1年も続けていると、どの記事が伸びて、どの記事が伸びないかは、配信前からある程度予測できるようになります。それでもサカイタイムズでは、「伸びる記事」だけを配信していません。それでは、堺市という街の姿が見えてこないからです。

アクセスが伸びなくても、街を理解するうえで欠かせない情報はあります。「こんなニュースもあったのか」と、あとから気づくための記事も必要だと考えています。私自身は普段、人気やランキングといった記事ではなく、読みたい文章を基準に記事を読んできました。

あとから効く情報

堺市民にとって「いま」重要でなくても、「あとから」重要になる情報は少なくありません。行政施策も街の変化も、単発では意味を持たず、時間をかけて輪郭が見えてきます。だからサカイタイムズでは、「その瞬間にウケるかどうか」ではなく、「振り返ったときに意味を持つかどうか」という視点も大切にしています。

ニュースは動詞

ここで、私が編集の軸として強く意識している言葉があります。かつてSNSのない時代に、ニューヨーク・ポストの記者だったピート・ハミルは、「NEWS IS A VERB(ニュースは動詞だ)」という言葉で、世間やメディアに警鐘を鳴らしました。

有名人の名前や肩書きといった名詞が先に立つニュースではなく、無名であっても、社会のなかで「何が起き、何が積み重なっているのか」という動きそのものを伝えること。それが本来のニュースだ、という考え方です。

積み重なりを見る

サカイタイムズが重視しているのも、まさにその視点です。誰が有名かではなく、街のなかで何が起きているのか。単発の話題ではなく、時間のなかでどう積み重なっているのか。その「動き」を伝えなければ、街の実像は見えてきません。

知ることが残る理由

このことは、街への愛着にもつながります。街のことを知らず、街への思い入れがなければ、仲の良い友人との縁さえ切れなければいい、という発想になります。そうなれば、いつでも他の地域へ移り住むことになります。

残念ながら堺市は、大阪でも人口減少が著しい地域です。ただの自然減ではなく、社会増が少ないのです。来年(2026年)初頭には、外国人居住者を含めても80万人を確実に切ります。つまり…ずっと、そういう地域でした。

記録でつなぐ

だからこそサカイタイムズは、「地元をもっと身近に。堺市の〝いま〟を伝える」という姿勢を軸に、日々の記事を積み重ねてきました。まず、知るところから始める。その積み重ねが、街を理解する手がかりになると考えています。これは私自身にも当てはまります。堺市のことを、最初から人より多く知っていたわけではありません。だから、みなさんと同じように成長しているのだと考えています。

かつて地域には、“生き字引”のような人がいました。長く街を見てきた人たちは、日々の出来事を記憶として蓄積し、目の前の情報を相対化していました。情報とは本来、そうやって時間とともに積み上がるものです。サカイタイムズが1年を迎えようとするなかで、こうした姿勢が受け入れられてきたことを、素直にうれしく思います。

読者と会う場へ

最後に、来年(2026年)の目標のひとつとして、サカイタイムズ読者のオフ会を考えています。サカイタイムズについて話す場であると同時に、堺市に関心を持つ人同士がつながるきっかけになればと思っています。

帰国の際に告知しますので、どうぞお気軽にご参加ください。直接お話しできる機会になれば幸いです。

写真:ペルーのクスコ近郊の遺跡にて

2025年12月31日

サカイタイムズ 編集長

笹野 大輔